南洲翁遺訓 第37条
原文
天下後世迄も、信仰悦服せらるるものは、只是一箇の真誠也。古へより父の仇を討ちし人、其の麗ず挙て数へ難き中に、独り曽我の兄弟のみ、今に至りて児童婦女子迄も、知らざる者の有らざるは、衆に秀でて、誠の篤き故也。誠ならずして、世に誉めらるるは、僥倖の誉也。誠篤ければ、縦令当時知る人無くとも、後世必ず知己有るもの也。
現代語訳
未来永劫までも信じて心から従う事が出来るのは、ただ一つの真心だけである。昔から父の仇を討った人は数えきれないほど大勢いるが、その中でひとり曽我兄弟だけが、今の世に至るまで女子子供でも知らない人のないくらい有名なのは、多くの人にぬきんでて真心が深いからである。真心がなくて世の中の人から誉められるのは偶然の幸運に過ぎない。真心が深いと、たとえその当時、知る人がなくても後の世に必ず心の友が出来るものである。